日本語では川の名前は「多摩川」「高梁川」の如く殆ど「川」を尾に付けて呼ぶ(これは「多摩」「高梁」といった先行する地名と峻別する目的もある)。
一方日本語で「テムズ川」「セーヌ川」と呼ばれる川の名前は、原語では単に「Thames」、「Seine」と謂う。「テムズ」「セーヌ」だけでも文脈で判断できるかも知れないが、日本語に於いて川の名前には原則「川」という形態素が必須なのである(「黄河」「長江」「漢江」「鴨緑江」のような中国・朝鮮の主要な川は例外的に「川」以外の形態素が付く)。
ここで言う「川」のような形態素を必須接辞と呼ぶべきかも知れない。「川」は非拘束形態素なので厳密には「接辞」ではないが、「川」を単純に名詞として用いる場合や「川上」「川下」の如く一般的な造語要素として用いる場合と比べやや特殊なので、敢えて接辞と呼ぶ。
「ビビンバ」「ロコモコ」に「丼(どん)」をつけて「ビビンバ丼」「ロコモコ丼」と呼ぶ日本語話者も少なくない。ビビンバやロコモコを盛る食器が日本で謂う「丼(どんぶり)」に該当するか否かは不明瞭であり、該当すると判断したにしても「丼」を付加する必要が実質的にあるとは考えがたい。
やや批判的な論調であるがともかく、一部の日本語話者にとっても「丼(どん)」は必須接辞なのである。しかも一般名詞としての「丼」は普通「どんぶり」と呼ぶので、「どん」と読む場合は猶更接辞としての性質が強い。
ベトナム語の「cá」(魚)「chim」(鳥)、「con」(哺乳類など)(以上、日本語と逆に前に付ける)も「必須性」を帯びているようだが、筆者の専門外なので詳細は控える。