文字の意味の違い・地域による違い・言語による違い

渡邊朱倫

文字、特に漢字について「意味の違い」を挙げ、例として「走」が普通話(以下「中国語」)では(或いは「中国では」)「あるく」、日本語では(或いは「日本では」)「はしる」を意味することは、屡々指摘される。

ここで注意すべきなのは「言語」と「地域」の違いである。日本語話者が中国に渉って、書面を用いて日本語で「走」の文字を用いればそれは「はしる」の意味と捉えるべきだろうし、中国語で「走」の文字を用いればそれは「あるく」の意味である。中国語話者が日本に渉った場合も同様、即ち漢字の意味は原則、言語に属する

「走」のような「意味の違い」は「地域による違い」よりかは「言語による違い」である。Unicode 等を批判する文脈で「を越えた漢字の統合はあってはならない」と主張した人がいたが、話者の移動、或いは国境の変化を考慮すると、そもそも文字を国に属させようとしても、属させきれない。

無論、他言語の普及している地域に簡単に移動できる人や状況は限られるから、「言語の分布」という概念はまだ死に絶えてはいない。即ち、日本語は日本の大半の地域、中国語は中国の大半の地域で会話に用いられる。勿論日本にはアイヌ語があり、中国にはウイグル語がある等、例外も多い。