句集
渡邊無繖
某病院の句会で披露した俳句です。
春
恵方巻き日本の民の味覚慾
頼りある君の義理チョコ高カカオ
義理チョコを方程式の隅に置く
流し雛漂ふ先はどこの国
おほきみが民の厄呑む飾り雛
保線車に乗る作業員雛の段
漫画にもなせぬ山路で東風纏ふ
ともがらは花に餞されけりや
岡山で一人山葵菜食べて寝る
憧れは東京とその桜餅
切りたての髪に春風吹き荒ぶ
産業の相混ずる里花白し
花冷えの街に担々麺啜る
城趾の花に恩師ら酔ひしれり
山躑躅湿る崖にも赤く栄ゆ
掻き揚げは蕎麦に良きかと土筆摘む
春の暮れ少し優しくなれる時
夏蜜柑ごろごろ熟るる垣の下
夏
藤棚や人俟つ頬に雨滴
新緑は医師の心を静めずや
餡蜜を盥で食す漫画あり
貰い得し台湾粽佳き夕餉
苗植わる末はにぎりか炒飯か
この梅雨も一つ伞差す人を俟つ
梅の実は暁に熟る医者のかど
紫陽花の色健きかな三段峡
七夕も引野の空は赫く燃ゆ
奥多摩で半袖の子が岩魚曳く
はま寿司で鰻二貫土用越す
晩夏の膳鰻ピラフは滋味なりや
陽向にて甘酸き氷菓ざくと割く
炎天下木蔭にポカリ二つ置く
昼怠し宇治金時で気を保つ
秋
チョコパイのチョコもねとつく残暑かな
トランスの残暑に響く飴屋台
夏終わる共に山の香浴ぶる路
車過ぐ蒼き朝顔盛る柵
うらぼんも聡かりし祖母無言なり
祖父母らの丘にも止まぬ秋の蝉
ちゃり漕がば金江の山に桔梗咲く
渾沌の夢から覚めて秋の雨
新米の田の移り往くこの車窓
稲刈機谷に軋みて米給ふ
記念樹が朽ちて秋桜幾百輪
秋桜が幾千徽章編み誇る
空気をも赤黄に染むる秋の雲
月よりもさやけき君の澄まし顔
彼岸花清らに赤き儒者の郷
彼岸花培はずとも野に赤く
君と僕椎茸焼いて食べる夜
鮭フライ荒む心へほぐれたり
龍田揚心の山も装へり
テレビ越し茸リゾット煮ゆばかり
芋煮せん牛派豚派に精進派
谷川の紅葉の血潮誰を俟つ
法面の稚き紅葉の強かさ
冬
冬空の爽やかな粒頬に落つ
薬飴お茶請けにする冬の喉
三井野原鉄路に雪がこんもりと
鱈旨しつつがなきかな漁師たち
かぼちゃ汁仕込む頃には夜更けなり
ブロイラー黙々と食う聖夜なり
原チャリの猛り眠れぬ聖夜なり
君と我共に湯豆腐掬はずや
大晦日華原聴き聴き肉焼いた
取り敢えず鉄火キンパで春を俟つ
新年
不死鳥は出で翔ばざるかこのとんど
七草の粥に覚りの味ありや
卑弥呼の血継ぐや年始のバイト巫女